今日も暑いね、

『元気してるかな?』なんて毎日思ってる。メールを送らなかったとしてもね。大体さ、翔丸だって公式ブログ更新してないじゃん。

 朝鳴いていたセミも暑すぎるのか、この真っ昼間には休憩中のよう。近くにある神社の木にでも移動して少し涼んでいるのかもね。

 朝から2件ご利用者様の所に出向いてきたよ。今はちょっとひと息ついている所。今日のケアはちょっと失敗。どうやったら次回はうまくいくのかイメトレしてます。苦笑

 福本さんはね、私にとってはとても貴重な人なんです。失礼な言い方になっちゃうかもしれないけど《生きる教科書》という言葉が一番しっくりくる。それほど毎回学びが多いんです。

 新しく始めた介護のお仕事、最近になってやっと車椅子からベッドにひとりでは立てない方の移動がスムーズにできるようになってきました。

 安堵していられたのも束の間、どうやら福本さんは私のケアが終わった後、ベッドで寝てしまうようなんです。すぐにデイサービスの方が迎えにきてくれるのだけれど、寝ている身体を起こして車椅子に乗せるのは大変だという話しになりました。

 ということで、ケアのやり方を変える指示が出たんだ。おむつ交換をした後、再び車椅子に乗ってもらって、口腔ケアをしてそのままデイサービスに引き継ぐという流れになりました。

 そう、再び初めての経験、ベッドから車椅子への移動…萎えるほど難しい。どこのあたりが?って思うよね、身体が動かない方を寝ている姿勢からベッドの端にまず座ってもらうまでが第一難関。今日はそこで失敗しました。

 うまくベッドの端に座らせてあげられなくて、もう一回ベッドの真ん中に寝てもらい、やり直しさせていただきました… その時の福本さんの「ごめんね」が悔しくてね。そんな事を言わせてしまった私の下手っぴなケアがいけないのにさ。

 悔やんでいても仕方ない訳よ、相手は待ってくれないもん。ちゃんと次もあるわけで。だから自転車に乗りながら帰り道に考えるわけよ、経験がない頭でさ。

 もう少し福本さんの身体がベッドの中央、そして上部にがある方が上手くいくのかなぁ…となんの確証もない作戦をひとりで立てながら、大きな橋をわたっていたら、風を切るように音が降りてきた。

 翔丸が何か私に伝えたいことでもあるんかなぁって思ったよ。だから信号待ちで降りてきた曲を検索して聴いてみたんだ。本日の声の主は桜井さんでした。

 

 

   そうだね、翔丸だけじゃないと思うんだ臆病者になってしまうのって。不思議だよね。多くの人は愛する人を守るために強くなるっていうんだけれど、実はそれと連動するかのように自分のことすらも《守り》に入れてしまうようだよ。

 ミスターTもそうだった。スピードを恐れる事なく彼は弾丸のようにスキーを滑らせていた。そんな彼の得意分野は最もスピードが出るジャイアントスラローム。その界隈でトップクラスに上りついた彼が一度リタイアした後、カムバックするという話が出たんだ。

 それは本国主催で開催されるのオリンピックのための出馬表明だった。ファンだけでなく彼も当時はすごく興奮してたんだ。

 けれどもオリンピック開催が1年切った頃、彼はオリンピックに参戦しないと再び決意をメディアに公表したんだ。

 近くで毎日、共に暮らしてきた《家族》だから聞けた本音かと思う。私の「How come??」という質問に彼は「今の僕は、昔の僕じゃない。あの頃の自分にもうなれないと気付いたんだよ」と清々しい顔で答えてくれたんだ。

 

" I used to ski for myself, but I can't do it anymore .And I am afraid to crash now .Bcause of my doughter I have . I wanna spend more time with her more than to be a hero."

 

 自分を守ろうとする理由ができたら、今までのように無心にスピードの事だけを考えることが出来なくなったと教えてくれた。名声よりも大切にしたい事が彼には見つかった。

  ただそれだけの事。そして臆病者になることは決して悪いことでもないと当時の私は彼に教わったんだ。

 きっと翔丸もキャリアを積む中で支えてもらった仲間や沢山のファンの方たちが増えていったんだと思う。たくさんの《愛すべき人》がいることは人生の帰路で何を優先させるべきか判断が難しくなることも増えると思う。

 けれども、それだけに支えも必要な時に得られるということでもある。そう思える人がいるってことは人としてありがたいことだと思うんだ。

 桜井さんって素敵だよね、愛すべきたくさんの人がいる中でも『ヒーローになりたい、ただ一人君にとっての』とサラっと自分の想いをぶつけるんだから。

 たくさんの愛されるべき方たちも、人生をフルコースで深く味わうためにはそういう気持ちがあってもいいんだなぁって思ってくれているのかもね。

 私は翔丸に私のヒーローになんかになって欲しいと思わないかなぁ…っていったらショック??ははは、「おいおいオイ!」っていう声が聞こえてきそうです。苦笑。

 その気持ちはいつかの誰かのためにとっておいてもいいんじゃないかな。私がいま望んでいるのはヒーローじゃなくて、一緒に手を繋いて歩いてくれる人だと思う。

 私が感じる痛みも喜びも、君の感じる嬉しさ悲しみも共に分かちあえる、そんな日々がきっと私たちの時間を《リアル》に変換してくれるんだと思う。今までに起こった全てのことも、これからのことも。

 躓きそうな時に手を差し伸べてくれるような紳士でなくて、一緒にドテッて転んでケタケタ笑ってくれる人が必要なんだと思う。

 やっぱり私はチャーミーグリーン派かなぁ。昔から憧れちゃってたな。ははは、「こんなわがままでもいいですか?」断られても仕方ないか。笑っちゃうね。

 さて、もう一件行ってきます。雷もちょうど通り過ぎてくれた午後。私の思いはどう伝わることやら。きっと光が差すのはあっという間なんだよ、ただ知らないだけで… いってきます。