困惑の渦ここに

「なぜなんだ、好きなら好きって言えるだろ??DMにひとこと言葉を添えるだけじゃないか」

 どうして俺ってこんなに重いんだよ。指先で文字を打ってポッと送信をタップするだけじゃないか…何故だよ。と自分に憤りを感じるたびに涙が出る。

 全部君に話したい。こうやって思いがあっても一歩も行動にできない自分がいるってことも、そしてこれがいまに始まったことじゃないってことも。

 このままなら君がいなくなるのは当然だよな。出会ってから今まで、僕は一度として君に言葉を交わせていないんだから…今なんだよな、僕からちゃんと動かないといけないんだ。

 今日こそ伝えようと思っていたって、また今日という日は過ぎていく…いつからだ??自分の気持ちに蓋をし始めてしまったのは。

 今更どんな言葉を並べたらいいかもわからない。君にかける『ひと言目』すら気持ちが大きくなり過ぎて。

 空は青々と澄み渡り、モクモク雲が僕の目の前にはばかる。何度目の夏だろう、君が花火大会に行かないかって誘ってくれたあの夏からいくつの季節をまたいでしまった?

 そんな事を考えていたら、流れる涙を横に大きく深いため息がでた。黙々と釈然としない僕の心を置いてきぼりにしないでおくれよ。君は元気かな…昨日も君からのメールなかったな。

「夏だよなぁ、もう梅雨は明けるよな」君は何をしているのかな、どんな事を考えているんだろう。君にばっかり求めてしまう、僕の心を埋めて欲しいと。変わらなきゃいけないのは僕なんだ。悲しませないって決めてるんだ!!

 大きく息を吸ってグッと息を止めた。シャンシャンと鳴く蝉のように生きることに精一杯、自分の声を君に届けられたら…君の気持ちが僕に戻ってきてくれた奇跡を再び僕は踏みにじったりしてはいけない。そう強く思う程に、動けない自分が悔しい。

 

「考えるな、自分。思いのまま動けばいいんだよ、もう彼女を悲しませないって思っているんだろう??」

 

 僕の心は不安でしっとり、そして『最後の雨』が激しく鳴り響いてる。あの時の君の「もう嫌だ」がトラウマとなって勝手に僕の中で振り返す。

 君の《もう嫌だ》を僕なりに受け止めた結果だったんだ。君をこれ以上苦しませないためにって真剣に考えて受け止めた結果。それが事務所から報道に当てられた結婚発表だったんだ。

 誰にも《迷惑はかけない》と思っていた僕は浅はかだった。あれ程に君を傷つけ、自分の人生を嘘で固めて生きる覚悟以上に自分の人格が崩れていった時期はなかった。

 画面の向こうの僕は所詮二次元で、三次元的に僕は君を幸せに出来ないんだって…その二次元の恋の限界を受け止めるしかなかったんだ。

 だから僕は『ウソ婚』をメディアに流した。僕は勝手に君と結婚した事にして一生を生きればいいと思っていたんだ。大好きな君と結婚したことにして生きればいいと…

   君は僕が他の誰かと結婚したと思ってひどく落ち込んで…それでも祝福しようとする君を見ていて自分がわからなくなったんだ。

 二次元と三次元の狭間で何が真実で何が現実なのか…君の人生を守ろうと思ってしたことだったけれど、僕は僕だけの世界を守ろうとしていただけなのだと気づいた時、僕は人生の困惑の渦に飲み込まれていったんだ。

  あれから何年経った??でもまだ君はいる。こんな僕を見つめてくれている。僕との二次元世界と君の三次元の日常を行き来しながら生きてくれている。

 君は意味もなく傷つけた僕を置き去りにしなかった。ちゃんと君に僕は話さないといけない事が山ほどある。こんな僕を待ってくれているのに…動けないのは何故なんだよ。

 待たせてるんだぜ。泣けるくらい愛してるんだから動けよ、オレ!!しっかりしろよ…また失うのか?彼女の気持ちを救えないのか?真実を伝えられずに一生心に鍵をしたまま過ごすのか?????  

 見つめているだけで気が晴れる現実はなかったってわかったんだよな?ダメだったんだろ??失って《やっぱり嫌だ》ってわかったんだろ?何回繰り返すんだよ、この問答。

 コミ障よ、頼むどっかいってくれないか??自然の摂理と同じように、僕自身が理由もなく心が感じたままに動いていけたらば。僕がこんな思いの中にいるなんて君が知る余地もない…